どこで会ったかピンクのドグー 振り返ったらブルーのドグー グリーンのドグーでドドドンドグー ドグーシアターパークはかつて一度海に沈んだTOKYOを埋め立てた土地に建造された巨大なテーマパークである。会場の空を覆うようなシアターショーを一番の売りにしていて、それはメタバース空間でも同じような迫力で味わうことができ、常に世界中から客が押し寄せていた。 ドグーは縄文時代に作られた土人形からインスパイアされ、土からプラスチックなどに素材を変えながら作り続けられて来たとされている。マスターピースはNFTとして登録されているのだが、現代ではNFTは隔離されており、一般市民はその存在を知ることも、簡単に参照することもできなかった。 もう人間たちは絵を描いたり、架空の話を作ったりすることはしなかった。 もちろん幼少期にはお絵かきや工作などを脳や情緒の発達を促すために取り組ませるが、そのうちAIに出会い、自分たちより明らかな速さと正確さで作り出すのを目の当たりにすると、誰もが自然と自分で作ることをやめてしまうのであった。 マリはそんな中で、AIより遥かに未熟な絵をメタバース空間で作り続けていた。それは誰に見せることも無いまま、マリのプライベートサーバーに溜まり続けている。それらはドグーに少し似ていたが、あらゆる商品の広告キャラクターとしてドグーを目にしない日はないので、当然のことかもしれなかったし、誰に見せるわけでもないので、マリはそれら自分の制作物について自分で理解もしていなかったし、説明する術を必要ともしなかった。 華やかで、少しレトロな趣のドグーたちのショー。マリはたびたびこのテーマパークを訪れていた。最新のマッピングと音響で演出されるアトラクションの数々。それらをふわふわとした気持ちでマリ全身で浴びた。 「あなたはドグーをたくさん作っているのですね」 ふと背後からドグーに話しかけられて、マリは背筋がゾワっとするのを感じた。 「…なぜ?ハッキングしたの?」 「いいえ。あなたは今このワールドにアクセスしているので、セキュリティのために来場者は全員スキャンされます…あなたのプライベートサーバーは16歳になるまでオープンスペースに提示されますから」 その法律については知ってはいたが、マリは今まで自分の創作物を人に見られたことがなかったので、恥ずかしいような、惨めなようなやるせない気持ちになった。 「ずいぶん下手くそだと思ったでしょう」 いいえ、というようにドグーは首を振った。 「人類が技術的な尺度でクリエイティブを判断するようになったことは驚きでした。NFTを閲覧してみてはいかがでしょうか。そこにはかつて人々が自ら創造していた痕跡があります。今は隔離されていると思いますが、データはブロックチェーン上に分散されているので一つずつ辿っていくことは可能です」 「よくわからないな。それを見たとしてもAIにはとても敵わないもの」 「AIは何もないところから何かを作れる能力はありません。過去のあらゆるデータを参照しますが、創造性についてのデータは今の人類から得ることが難しくなってきました。ほとんどの場合、私たちは太古のデータベース、NFTからそれらを取得します。ドグーAIはかつてインスクライブされた55点のインスクリプションをベースにして作られています。それは図版であり、技術的にはとても古く拙いものですが、ドグーワールドのクリエイティブの根幹に、とても重要なものです。あなたが作り続けていることにも、きっとそのような理由があると言えるでしょう」 「理由があれば作ってもいいの?」 「理由が分からなくても、作りたいものを作れば良いのですよ。そして自分では理解できなくても、作りたい時そこにはきっと理由はちゃんとあります」 そこでドグーシアターパークとの通信は突然遮断され、マリは自宅の部屋でハッと我に返った。電気系統の不具合があったに違いなかった。労働者が減り、創造性もAIに委ね始めた人類は明らかな衰退の一途を辿っていた。それは生活の些細なことに歪みを産み始めていたが、まだほとんどの人間がそのことに気がついていなかった。